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【覆面7号オフレココラム】「第85回東京優駿」

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某ブログランキングサイトで上位をキープしていた「競馬事情通」こと覆面7号。 「小鳥」という人畜無害な通称とは裏腹に、覆面馬主中屈指の毒舌や暴言の多さを誇るが、各方面との人脈、的中、ファンの数も非常に多い。

ダービー。

またしても、俺の持ち馬はこの舞台に登壇する事はなかった訳だが、俺は本当にダービーを取りたいのか?と言われれば、諦め半分の「取れたら良いな」的な感覚である事は否めない。

億を超える馬達でないと無理、という事よりも、そもそもダービーで勝ち負けするような仔を産む母系の馬を手にする事が出来ないと諦めていたわけだが、今年、俺はダービー馬を手にしたかもしれない。

ひょんな事から俺の手元に流れついてきた牝馬がいる。

このレベルの血統を持つ牝馬が俺の手元などに来るわけが無いのが競馬界の常だが、世の中は面白い。手に入っちまったわけだ。手に入った経緯を話すと長くなるが、まぁ、なんというか「わらしべ長者」的な話だ。

わらしべ長者では「藁→アブが結び付けられた藁→蜜柑→反物→馬→屋敷」という流れだが、俺の場合も似たようなものだ。

きっかけはとある寿司屋でノリで口にした「この馬良いじゃないですか!」という一言。500万ほどの安い馬を買うことになった訳だが、これがきっかけで付き合いが始まり、その馬が走ってくれた。月日は流れ流れて、最終的には「え?この繁殖俺に託してくれるんですか?」的な話である。

毎年、ダービー前後に「ダービーロス」「ダービーブルー」にかかり、若干センチメンタルな気分に陥る俺だが、今年はそれ程でも無かった。

その理由は「既にダービー馬を手にしているから」である。

現当歳馬のセリは7月頭のセレクトセールから始まるわけだが、大馬主さんには言っておかねばならない事があるな。

「すまん、第88回日本ダービーは俺が頂く。だから、セレクトセールにはダービー馬はいないぞ」

とね。

もうローテーションも決めてある。
2020年の10月の京都芝2000mでデビュー。
オリンピックの熱もさめやらぬ日本列島。
新馬戦を観戦しに競馬場へ行こうとするも、外国人観光客が多くて宿の確保も面倒な秋の京都。

まだまだ腰高でゆるゆるの馬体だが、楽勝してもらう。

鞍上は2019年に一気にTOP10ジョッキーに躍進した坂井瑠星。
厩舎は矢作厩舎でどうだ?

基本的に南関で競馬を覚えた俺としては「THE 大井魂」とも言えるこのチームでダービーを勝ちたい。
というか、瑠星をダービージョッキーにして、オヤジの英光と美味い酒が飲みたいだけだが、ダービーのトロフィーに酒を入れて回し飲みし、グダグダに酔っ払う。そして、朝起きたら「第88回日本ダービー」と刺繍された優勝レイにくるまって目が覚めて、「ああ、ダービー勝っちまったのか・・・」と、思いたい。

2戦目はもちろんダービーを意識して「東スポ杯」に向かう。
相手は、堀厩舎からデビューしているドゥラメンテ産駒の大物と、藤沢厩舎のディープ産駒。
そして、毎年恒例でもある「マイネル軍団」の中から総帥のビッグマウスによって人気先行しているスクリーンヒーロー産駒。

俺の持ち馬は、4人気に甘んじるが、勝ちに拘るよりもしっかり競馬を覚えさせるレースに徹してもらう。
にもかかわらず、2着に好走し賞金を加算する。

全勝ロードでは課題も見つけづらいし、ここは負けてもいいと思っていたが賞金加算によりローテーションも楽に考えられる。思った以上にこの馬走るぞ!と実感しながら冬のGI戦線はパスし、2月の共同通信杯から始動させるローテーションを描く。

冬を越し、馬体もしっかり成長。

まだまだ緩い部分はあるが、厩舎としてもこの成長力ならひょっとするかもしれないと期待が徐々に高まってくる。共同通信杯の結果次第では「皐月直行→ダービー」のローテーションの青写真。残念ながらここも2着だったが、収得賞金的には皐月賞の出走条件はクリアできる。

ただし、「皐月賞で5着以内」に入らなければ、ダービーへの出走はギリギリ。
タイプ的にも中山が合うタイプではなく、迷いに迷って皐月賞はパス。
青葉賞→ダービーのローテーションで進める事が決まった。

中3週で二回の東京への輸送は懸念材料だが、それよりも、東京に拘ったローテーションでダービーまでは進めると言う方針で合致した。

青葉賞当日。

この時点で賞金順でのダービー出走権はほぼ手中に収めているが、重賞未勝利馬がダービーで連対していない事を知っていた我々は、今の状況で勝てなければ「ダービーなど夢物語である」と、トライアル仕様ではなく、馬の成長力を信じた仕上げを施した。もちろん、120%の仕上げでは無いが、95%程度には仕上げてある。

東京も三度目の挑戦で輸送にもしっかり慣れた様子だ。一緒に乗っている1号のアニキも珍しく緊張している。東スポ杯、共同通信杯で共に半馬身差の2着で負けた最大のライバルが皐月賞を制していた。もう一度、ダービーで雌雄を決するためには、ここで負けてはいられない。1号のアニキに「青葉賞勝ったら、表彰式で『はいどーーん』って叫ぶけどいいか?」と聞くと、「バカ、それはダービーまで取っておけ」と窘められる。

そんな青葉賞を、持ったまま3馬身突き抜ける。

もっと嬉しいものかと思っていたが、思ったより頭は冷静。1号のアニキとがっちり握手を交わし、口取り写真を取るために地下馬道を通ってウィナーズサークルへ向かった。ダービーへの勝利を予感させる楽勝ぶりに、身が引き締まる思いで、おちゃらけている雰囲気では無い。

東京競馬場の地下馬道からウィナーズサークルへと上がる坂道。歩を進めるたびに徐々に明かりが差し込んでくる。外に出た瞬間に聞こえる大歓声。そして、一気に視界がひらけ東京競馬場のスタンドと青い空が眼に飛び込んでくる。この景色が、俺はたまらなく好きだ。これが、ダービーで見られるとすれば・・・。

武者震いが止まらない。

オークスは荒れに荒れた。

それが、余計に「俺たちの馬でも行けるかも」と思わせる。
ダービー出走が決まってからというもの、すべてが手につかない状態が続く。
出るだけではなく、『皐月賞馬の2冠に向けたの最大の刺客である』と、持て囃されている。
気がそぞろで、事故でも起こしたらたまらないという事で、バスをチャーターして東京競馬場に向かう計画だ。

ダービー当日。

朝4時半には目が覚めてしまった。
なぜか、二日酔いでも無いのに嗚咽がすごい。
ほぼ寝ていないにもかかわらず、頭は冴え、目は血走っている。
大して小便も出ないのに、何度もトイレに足が向く。

ビビってんのか?
自分が走るわけでもないのに、緊張感が物凄い。

ビビってんのか?
緊張をほぐすためなのか、ずっと意味の無いことをしゃべり続けている。

ビビってんのか?
「俺の馬が勝ったら「はいどーん!」って、叫ぶぞ!」ってコラムに書いちまった事。

ダービー馬主がキチガイってのも悪くねーけど、流石に騎手インタビューのマイクを奪って、東京競馬場に響き渡るくらいの音量で『はいどーーん!競馬は簡単だ!』なんて叫んだら、そのまま捕まる可能性があるよな・・・。

朝から、そんな事を考えながら持ち馬の入った枠色と同じパンツ・ネクタイを締め、競馬場に向かう。

一日中ふわふわした感覚だ。
思考の中心が定まらないし、視点も定まらない。
皐月賞や菊花賞、オークスや秋華賞、そういったレースには挑戦した事があるがダービーは初めてだ。初挑戦で勝てるほど、甘くは無い。甘くは無いが、今、3人気。

期待するなという方が無理だ。

横を見ると1号のアニキはバコバコ馬券を当てている。
これがこの人のリズムなんだろうが、流石だ。
俺みたいな小物は、持ち馬の生まれた時からの写真を見ながら哀愁を漂わせ、既に現実逃避気味で馬券になぞ集中できる精神状態では無い。

午前中のレースで馬券に集中できない事を悟った俺は、出走馬主のパーティーを終え、出張馬房に出向く。

東京競馬場の馬房は異常に遠い。
パドック脇から地下馬道に入って直ぐ左に駐輪場があり、そこに停めてある自転車は自由に使用してよく、それに乗り馬房を訪問するわけだが、なぜか地下馬道から場房に向かう下り坂で、1号のアニキが異常に飛ばし始め、競争になる。1号のアニキも緊張していたのだろう。飛ばしているが、何回も足がもつれ、ペダルを踏み外す。完全に空回りだ。二人して息が上がった状態で馬房を訪れる。

中三週の再輸送でも馬体を減らさず、毛艶もいい。
眼力も1号のアニキに負けて無いし、オラオラ感では俺にも勝っている。

僅か2分ほどの滞在で、スタンドに戻ったが、馬に会ったら、さっきまでの緊張が嘘のように冷静になった。

「お前ら、いい年して、なに緊張してんだよ!走るの俺だしw」

と、愛馬に言われているような気がした。

パドックでも威風堂々と歩き、返し馬でも落ち着き払っていた。
パドックからスタンドへ戻るエレベーターで、ライバル陣営と一緒になる。

誰も口を開かない。
いや、開く空気感では無い。

馬主席に戻り、単勝馬券だけをしこたま買い込む。

スタンドから双眼鏡で覗いた愛馬は、ゲート裏でチャカつくこともなくしっとりと気合を乗せゲート入りを待っていた。

握った双眼鏡がヌルヌルと手汗で湿る。

ファンファーレが鳴り響き、観客の手拍子と掛け声が場内に響き渡り、何度も聞いてきたアナウンサーの声が頭の中でリフレインする。

第88回日本ダービー。
2018年に産まれた7145頭の頂点を決める戦いが始まろうとしております。
最後の一頭がゲートにおさまって、体勢完了!
スタートしました!
18頭綺麗にそろいました!

・・・・・・・

今年生まれたハーツクライの牡馬への妄想が止まらない。

俺は妄想で元を取る。
悪いが、第88回日本ダービーは俺たちが貰う!
ぐははははは!

あ、一応言っておくが「気が狂った」わけでは無い、元々狂っているのである。

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