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存在意義

【白井寿昭】ブライアンズタイムの魅力

この記事を書いた人

広島県出身。厩務員、調教助手を経て1978年に調教師免許を取得した。相馬眼で『白井最強伝説』として広く親しまれている。通算795勝(中央775勝、地方・海外20勝、重賞42勝)

[第1章]ブライアンズタイムの魅力

・早田牧場が導入した馬

サンデーサイレンス、トニービンと同時期に活躍し、結果も残したブライアンズタイムの能力も相当なものがあったと考えていいだろう。

ブライアンズタイムは早田牧場が中心となって、シンジケートが組まれた種牡馬だ。
2002年に早田牧場は破産。
あの牧場が無くなって、すでに15年近い年月が経ったが、早田社長の競馬に対する情熱は現在も記憶に鮮明だ。
とにかく行動力が凄い。
11月のセールなどで海外に行くと、そこには早田社長の姿があった。
何度も声をかけてもらった。そんな思い出がある。

ブライアンズタイムのシンジケート結成に際し、私はマルブツの社長である大沢オーナーに「このシンジケートに入ったら」と薦めている。
大成功して良かった。
心の底からそう思っているが、サンデーサイレンスに感じたような“ひらめき”をブライアンズタイムにも感じたのかと聞かれれば、その質問には「ノー」と答えるほかない。

ブライアンズタイムはいわゆる“立ち繋”の馬だった。
柔らかい繋が武器だったサンデーサイレンスとは対照的。
しかも、腹がボテッとしていて、軽さが感じられなかった。

母の父にブライアンズタイムを持つ皐月賞馬のディーマジェスティは、ディープインパクト産駒でもコロンとした体型をしているが、あの馬はブライアンズタイムの影響を強く受けている。
良く言えば重厚、悪く言えばモッサリ。
それがブライアンズタイムという馬だった。

・ブライアンズタイムの魅力

では、私はブライアンズタイムの何に魅力を感じ、大沢オーナーにシンジケート入りを薦めたのか?
その理由は血統だ。

リアルシャダイの成功で注目を集めていたロベルトの産駒。
グラスワンダーを輩出したシルヴァーホークも、ロベルトを父に持つ種牡馬だった。

もっと広範囲で考えれば、ブライアンズタイムはサンデーサイレンスと同じヘイルトゥリーズンの系統でもあった。
この系統は日本に合うという感触を当時の私は持っていたのだ。

母系に目を転じれば、ブライアンズタイムの母父はクロースターク。名馬リボーの直仔だ。
ヘイルトゥリーズンにグロースターク、リボーの掛け合わせ。
この血統背景なら、走っておかしくない──。

ブライアンズタイム自身もフロリダダービーを勝つなど、それなりの競走成績を残している馬だったことも決め手になった。

私自身がブライアンズタイムの産駒に夢中になることはなかったが、それはサンデーサイレンスという傑出した存在がいたことに加え、ブライアンズタイムの子供が高値で取り引きされていたことが理由。
トニービンと違い、毛嫌いしていたわけではなかったのだ。

[第2章]ブライアンズタイム産駒に思う

・三冠馬の血統を考える

ブライアンズタイムの最高傑作──。
三冠馬のナリタブライアンこそが、その馬であることに異論はないだろう。
だが、ナリタブライアンはコンパクトでスラッとした馬体の持ち主。
腹回りがボテッとし、それが特徴されるブライアンズタイム産駒とは、一線を画した馬だった。

ブライアンズタイムの代表産駒はナリタブライアンだが、彼自身は母系の影響が強い馬だったと、私は考えている。

祖母パシフィックプリンセスの父はダマスカス。
日本で有名なのはオジジアンを父に持つエイシンワシントン。
快速で鳴らした同馬もダマスカス系で、ミスタープロスペクターが出てくるまで、アメリカ競馬の代表的な種牡馬として知られたダマスカスの子は、とにかく高値で取引された。

ダンスパートナーの姉にダマスカスを父に持つ馬がいるが、それもかなり高い。
40万ドルで取引されるような馬が、ダマスカスが掛かるだけで240万ドルにもなる。

それほどの肌にノーサンダンサーを掛けたのが、ナリタブライアンの母であるパシフィカスだ。
この血統の凄さは母系にこそある。
少なくとも私にとってのナリタブライアンは「ダマスカスの血が騒いだ馬」だった。

・不思議な縁があったマヤノトップガン

ナリタブライアンよりもマヤノトップガンのほうが、ブライアンズタイム産駒のイメージに近い馬だろう。

実は当歳時のマヤノトップガンを私は見たことがある。
この馬を生産した川上牧場は新冠にあるが、すでにマヤノトップガンは襟裳(えりも)のほうに移動していた。
ゆえに私は襟裳のほうまで、彼を見に行ったと記憶している。

そこまでして、彼を見たかった理由──。
それは彼の血統背景にあった。

私は種牡馬よりも、母系に注目して馬を探すことが多かった。
繁殖の良さを種牡馬が引き出せるのか?
常に興味を持っていたのはそこだ。
マヤノトップガンの母父は底力に富むブラッシンググルーム。
栗毛の馬体に母系の影響を強く感じた。
だが、同時に晩成タイプのような印象も持った。
それが購入を決断できなかった理由だった。

実際に未勝利を勝つまでに4戦も要し、出世の足がかりを掴んだのも3歳の夏。
見立て通りの晩成タイプだったが、彼が頭角を現したレースに、私は自身の期待馬を出走させていたのだから、皮肉なものだ。

スリリングアワーというサンデーサイレンス産駒。
1番人気はマヤノトップガンではなく、私の管理馬のほうだった。
逃げるスリリングアワーをあっさりと交わし、マヤノトップガンは簡単にこのレースを勝つ。

あの馬は爪があまり強くなく、当時もその影響があったはずだが、まるで力が違った。
そのレースを見て「この馬は相当な大物になる」と。
同時に逃がした魚は大きかったとも…。

その後の活躍はご存知の通り。
彼はGIを4勝し、競馬史に残る名馬になっていったのだ。

[最終章]ブライアンズタイムの弱点

・ブライアンズタイムに傾倒しなかった理由

ブライアンズタイム産駒で私は16勝を上げているそうだ。
8勝しか出来なかったトニービンと比較すれば、その成績はまずまず優秀に見えるかもしれない。
だが、16勝のうちの7勝はオースミステイヤーがマークしたもの。
2歳秋の京都開催で新馬勝ちし、8歳の夏まで走り続けたこの馬がいなければ、ブライアンズタイム産駒もトニービンと同様に、凡庸な成績で終わっていたかもしれない。

ブライアンズタイムの血統は魅力的だった。
だが、それでもサンデーサイレンスほどの魅力を私が感じることは一度もなかった。

トニービンと違い、ブライアンズタイムは初年度産駒から期待値が高く、それと比例して馬の値段も高かった。
調教師にとって、大きなレースを勝つことは重要なこと。
その目標を持たずに調教師の仕事を続けることは難しい。

だが、馬をできるだけ安く買い、その金額以上の賞金を獲得することも、同じくらいに大事なことだと私は考えている。
競走馬の所有を続けたいとオーナーに思ってもらうこと。
産駒の値段が高かったブライアンズタイムは、私の理念から少し外れてしまったのだ。

・ブライアンズタイムとサンデーサイレンスの違い

サンデーサイレンス産駒の値段も高かったではないか?
そんな声もあるかもしれない。

しかし、サンデーサイレンス産駒に関しては絶対の自信を私は持っていた。
この血統でなら、大きな“ハズレ”を引くことがない。
走るサンデーサイレンス産駒の特徴を私は知っていた。
だが、ブライアンズタイムは違う。

ブライアンズタイムの大きな特徴が“立ち繋”であることは、連載の最初ですでに述べた。
これが判断を難しくしている。

ブライアンズタイムの血が入っている馬は、ダート向きと言われることがあるが、これも繋が立っていることと無関係ではない。
繋の柔らかいサンデーサイレンスの系統と違い、ブライアンズタイムは芝でスナップの利かない馬が少なくなかった。
実際に走らせてみるまではわからない。
これが致命的だった。

トニービンはサンデーサイレンスとの比較で早熟性が足りず、ブライアンズタイムはサンデーサイレンスよりも柔らかさが足りなかった。
だからこそ、私はトニービンやブライアンズタイムではなく、サンデーサイレンスの系統に重きを置いていたのだ。

ナリタブライアン、マヤノトップガンだけでなく、シルクジャスティス、ファレノプシスというGⅠ馬を輩出したブライアンズタイム。
産駒のタニノギムレットはウオッカという名牝の父にもなった。

だが、そんなブライアンズタイムの系統も、サンデーサイレンス系ほどの発展はしておらず、後継種牡馬もほとんど育っていない。
三冠馬を輩出したブライアンズタイムの血は、牝系で残していくことになる。
厳しいが、それがサラブレットの生きる世界なのだ。

(2017年3月執筆)
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