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【白井寿昭】キタサンブラックは誰もが認める名馬(2017年・有馬記念)

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広島県出身。厩務員、調教助手を経て1978年に調教師免許を取得した。相馬眼で『白井最強伝説』として広く親しまれている。通算795勝(中央775勝、地方・海外20勝、重賞42勝)

大団円のフィナーレに満足したファンも多かったのではないだろうか。わたしも同様だ。レース前のパドックでは北島三郎さんと記念写真も取らせてもらったし、レース後に祝福の言葉をかけることもできた。残念ながら馬券は外してしまったが、満足のいく有馬記念であったと思っている。

多くのメディアですでに回顧され、評論もされている今回の1戦を深く振り返る必要はないだろう。キタサンブラックは今回の1戦で現役を退き、私たちの前で走ることは二度とない。キタサンブラックは強かった。武豊騎手はさすがだった。それだけで十分だ。

ゆえに今回はレースの総括ではなく、キタサンブラックという1頭の馬を私なりの視点で掘り下げてみることにした。

キタサンブラックは誰もが認める名馬。しかし、彼は生まれ落ちたその日から将来を嘱望され、クラシック候補としてデビューした馬ではない。常に距離の不安を取り沙汰され、本当に強い馬なのか?と疑問を持たれることも少なくなかった。

父はディープインパクトではなく、全兄のブラックタイド。母父サクラバクシンオーという血統背景を理由にし、菊花賞と天皇賞(春)では私も評価を下げてしまった。いまとなっては、これもキタサンブラックの奥深さを伝えるエピソードと言えるだろうか。

血統という観点で言えば、ディープインパクト、ブラックタイドの母であるウインドインハーヘアの凄さを改めて認識させてくれた馬であり、サクラバクシンオーのようなスピード血統を入れていかなければ、それが3200mのレースであっても、これからのGIでは勝ち負けできないことを教えてくれた馬でもあった。地味な血統と表現されることも多い馬だったが、現代競馬のニーズに合っていた。それを考えさせられた馬でもある。

キタサンブラックはデビュー当時から完全無欠の馬だったのではなく、時間の経過とともに強くなっていった。その部分に目を向ければ、キタサンブラックの強さの秘密とは、ハードな調教をしても壊れることのなかった屈強な肉体。欠点らしい欠点が一つもなかった馬体にあったと私は思う。

首から胸囲にかけての逞しい筋肉、美しい背中のラインに柔らかい繋。見ていて惚れ惚れするような馬体の持ち主だったが、パドックなどで歩かせたときにこそ、この馬の本当の素晴らしさを私は知ることができた。

前脚がスラッと伸び、曲がっている部分が全くない。脚が曲がっていても走る馬はいるが、膝が曲がった馬は脚を振り回して歩いたり、走ったりすることが多く、まっすぐな脚をしている馬に比べてダメージを受けやすい。つまり、それだけ故障をする可能性があるということだ。

トモから飛節にかけての部分。ここがまた素晴らしい。「O状姿勢」という形になっており、このような馬は力がしっかりと伝達することができる。ゆえに余計な負担が脚にかからない。ここが「X状」になっている馬もいるが、このような馬は競馬で走らないだけでなく、故障もしやすい。脚が湾曲している馬というのは、それだけで大きなマイナス材料を抱えているわけだ。

キタサンブラックはハードな調教を繰り返すことにより、凄みを増していった馬。そして、それができた最大の理由は、強気な調教にも耐えることのできる脚を持っていたことにある。競走馬にとって、脚の形というのはなによりも重要。私も馬を探すときには、できるだけ足元に不安の少ない馬を探していたのだが、キタサンブラックのような脚を持つ馬を見つけることは、そんなに簡単なことではない。しかも、有馬記念に出走した時の馬体重は540キロ。これほどの馬格がありながら、故障と無縁の競走成績を残した。なぜ、それが可能だったのか? キタサンブラックの馬体に改めて注目し、その素晴らしさを認識することで、この馬の本当の凄さを認識することができると私は思うのだ。

最後にこれだけの名馬を管理しながら、攻めの姿勢を崩さなかった清水調教師に賛辞を送りたい。この名馬を作り上げた最大の功労者は、キタサンブラックの長所を生かした若き調教師だったのではないだろうか。

2着以下についてもサラッと触れておく。2着のクイーンズリングも今回が引退レース。内枠を生かし、機を伺ったルメール騎手の手腕なしでは語れない競馬だったと思う。最後の直線で他馬の邪魔をしたとの指摘もあるが、あの狭い箇所を抜け、横の馬と併せたルメール騎手の行為に非はない。内にモタれてきたスワーヴリチャードとはまるで違うタイプのものだ。

3着シュヴァルグランは道中の位置取りが悪すぎた。最初のコーナーからメインスタンド前を通過した際の彼の位置と、2着クイーンズリングのそれを比べてみればわかること。武豊騎手が自分のペースに持ち込んでしまったことも踏まえれば、不利を受けながらも最後まで頑張ったレースだと思う。来年も主役の1頭として活躍してくれるはずだ。

4着のスワーヴリチャード。枠が悪く、位置が後ろになってしまったのはシュヴァルグランと同様。問題はやはり右回りだろう。コーナリングそのものに問題はないが、この馬は右回りだと手前をなかなか替えない。今回もそうだった。当然のことではあるが、同じ手前で走り続ければ、馬はそれだけ疲れてしまうし、右脚が疲れれば、内側にモタれてしまう。つまり今回の件は偶然ではなく、この馬の特徴として必然的に起こったものだ。このままでは走られる条件が左回りに限られてしまうし、仮に天皇賞(春)を目標にするようなら、この部分が大きな課題として残ってしまうだろう。先に不安を残したレースだった。

(※2017年12月執筆)
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