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存在意義

【白井寿昭】種牡馬クロフネ&天皇賞にまつわる話

この記事を書いた人

広島県出身。厩務員、調教助手を経て1978年に調教師免許を取得した。相馬眼で『白井最強伝説』として広く親しまれている。通算795勝(中央775勝、地方・海外20勝、重賞42勝)

【クロフネの持つイメージ】

・クロフネ=ダート?

すでに多くの産駒がデビューし、繁殖に上がった牝馬も多いクロフネ。
2002年に種牡馬生活をスタートさせ、産駒の勝利数は1200を超えた。
よほどの勝率を残す馬でない限り、その出走頭数は勝利数の10倍以上になるわけで、実際にクロフネ産駒の出走頭数は、2017年冬の時点で1万4200回を突破している。
ゆえに種牡馬としての全貌もほぼ明らかになっている。
おそらく、そう思われているはずだ。

種牡馬・クロフネに対する率直なイメージを問われれば、競馬関係者だけでなく、ファンの多くが「ダート」と答えると思う。
私もそうだったし、彼の産駒がデビューした2005年からの成績をすべて調べれば、そのイメージに大きな間違いがないことがわかる。
1200を超える勝利数の内訳をざっくりとした割合で出してしまえば、ダートが7割で芝が3割。
どうだろう?
ほぼイメージ通りという方が多いのではないだろうか。

では、クロフネ産駒の代表的なダート馬は?
ダートで850もの勝利をマークしている種牡馬。
この質問を「簡単」と感じるかもしれないが、実はこの質問こそが難題だった。
先のみやこSで強い勝ち方をしたテイエムジンソク。
その該当馬は彼くらいしか思いつかないのだ。

・GI勝ちは芝のレースのみ

例えば、クロフネの産駒をセールで購入しようと考えた場合。
そのほとんどがダート重賞で活躍するイメージを持っての購入になると思う。
しかし、クロフネの産駒がダートの重賞を勝つことはほとんどない。
前述したテイエムジンソク以外には、マーチSを制したマイネルクロップしかいないのが現実だ。

その一方で、クロフネ産駒は芝の重賞30もの勝ち鞍をマークし、GIも7勝している。
今年のNHKマイルCを勝ったアエロリットは記憶に新しい存在だろう。
NHKマイルCを制したクラリティスカイ。
ヴィクトリアマイルを勝ったホエールキャプチャ。
スプリンターズSと高松宮記念のスプリントGIを2勝したカレンチャン。
同じくスプリンターズSを勝ったスリープレスナイト。
朝日杯FSを制したフサイチリシャールは産駒最初のGI勝ち馬だった。

これを不思議な現象と感じた方も多いだろう。
私も同様の思いを持ったのだが、すぐに「なるほど」と納得した。
そして、この事実こそがクロフネという馬の本質を物語っていると思う。

なぜ、芝のGI勝ち馬すべてを私が列挙したのか?
それは名前を挙げた6頭が、ほぼ共通している特徴を持っているからにほかならない。

どの馬も搭載しているエンジンは大きい。
能力の高さは折り紙付きの馬たちばかりだ。
その一方で、道中で脚をためることができず、瞬発力を要求される競馬ではサンデーサイレンス系の産駒に遅れを取る。
その傾向は中距離以上のレースで顕著になるもの。
ゆえにGIという大きな舞台での勝ち鞍は1600m以下のレースに限定されてしまうのだ。

まだまだ説明不足?
私もそう思う。
ゆえに次回は現役時代のクロフネにもスポットを上げ、このような現象が起こっている理由を述べていきたい。

 

【現役時代のクロフネ】

・天皇賞にまつわる話

日本ダービーが外国産馬にも開放された2001年。
その年にクラシックを走ることになったクロフネの名は、ペリーの「黒船来航」に由来されたものと聞いている。

外国産馬初のダービー制覇だけではなく、(開放後)外国産馬初の天皇賞馬という勲章もクロフネは狙っていた。
もちろん、その偉業を目指していたのはクロフネだけではなく、実は私も当事者の一人。
クラフティプロスペクター産駒のアグネスデジタルで、外国産馬初の天皇賞馬という偉業を狙っていたのだ。

あの頃の状況を懐かしく思うときがある。
天皇賞出走の意思を伝えたときの吉田勝己さんのリアクション。
「先生、ホントに使うの? マジで?」。
あのときの勝己さん言葉は現在も耳から離れない。
距離が2000mであることを理由に、おそらく周囲のほとんどはデジタルの天皇賞出走を予想していなかった。
それは競馬関係者も同じ。
ゆえに前述のようなトーンになったと思うのだ。

当時、外国産馬には賞金上位の2頭のみにしか天皇賞の出走枠が与えられていなかった。
すでにGI馬でもあったアグネスデジタルは、メイショウドトウとともに権利を行使したに過ぎないのだが、残念なことにクロフネの出走を望む競馬ファンからネガティブな意見を聞くことは少なくなかった。
しかし、改めてクロフネの戦績を振り返ったとき、彼の運命を大きく変えた事象は、アグネスデジタルの天皇賞出走と気付くだろう。
あれがクロフネのダート転向の呼び水となったのだから、競馬の歴史を大きく変えた「ウインウイン」の決断と個人的には思っているのだが、どうだろうか。

・クロフネが見せたパフォーマンスに思う

ダート初戦になった武蔵野Sが9馬身、続くジャパンCダートが7馬身。
仮に屈腱炎での早期引退がなければ、彼は日本のダート競馬の歴史を大きく変えていた可能性が高い。
わずか2回のダート戦で残したインパクトはそれほどのものだったのだが、今回の連載のために見直してみたジャパンCダートでのレースぶりに改めて思う。
実に「アメリカ的なダート馬」のレースをクロフネはしていたのだと。

スタートで少し遅れはするが、そんな些細なことは「お構いなし」とばかりに外を捲って行き、直線を向いた段階ではすでに先頭。
小細工をするシーンはひとつもなく、単にエンジンの違いだけで他馬を一蹴する。
悪く言えば、淡白とも表現できる競馬。
だが、サバイバル戦になるアメリカでは、このようなパフォーマンスを見せる馬が多い。
むしろ、能力で押し切るくらいの馬でなければ、高い評価はされないものだ。

アグネスデジタルという存在を介し、私にとっても思い出深い1頭となったクロフネ。
その彼の本質はアメリカ産馬らしいダート馬だった。
優れた心肺機能を持ち、ゆえに長い距離のレースでも失速することがない。
ジャパンCダートの圧勝は、その証明とも言えるレースであるのだが、彼の産駒に父と同等の能力を持つ馬は出ていないという事実は重要。
これについては後述したいと思う。

私の思い出を少し加えながら、現役時代のクロフネを振り返ってみたが、どうだろう?
答えが見えただろうか?

次回はクロフネ産駒に対する結論とクロフネの今後について。
産駒数の多いクロフネなら、様々な状況で流用できる話になると思う。

 

【種牡馬クロフネの将来について】

・クロフネ産駒の弱点とは?

クロフネ産駒のGI馬はすべて芝のレースを勝った馬ばかりで、その距離は1200~1600m。
ダートの中距離というイメージが強かった自身の競走成績とは乖離している結果であり、ダートの勝ち鞍が芝の倍以上になっている種牡馬実績からも予想しにくいものになっている。

なぜ、このようなことが起きるのか?

前回、クロフネの本質を「サバイバル戦になりやすいアメリカの競馬で見るタイプの馬」と述べた。
この考えは産駒にも通用するものなのだが、クロフネほどの能力を有する産駒が出ていないということが、現役時代のクロフネのイメージと少し違う結果を生み出すことになっている。

では、もう少し掘り下げて話をしよう。

クロフネの産駒を考えるとき、我々は芝やダートといった条件に目をやることが多い。
だが、実際の考えるべき部分は違う。
例えば、スリープレスナイトは芝のスプリンターズSを勝っているが、彼女はダートで6勝もした。
仮にダートのスプリントGIがあれば、そちらに出走していた可能性もあるだろう。
もちろん、クロフネは決してスプリント系の種牡馬ではないのだが、それでも成績は偏ってしまっている。
その理由こそを考えるべきだ。

一貫したペースで流れる状況には適応できても、道中のどこかで脚をため、最後に爆発させるような器用さを、クロフネという馬もクロフネの産駒も持ち合わせていない。
他を圧倒する能力を持つクロフネは中距離でも力で捻じ伏せることができたが、そこまでの能力を持っていない彼の産駒は違う。
それができないからこそ、クロフネの子は芝の中距離で結果を残せず、ペースの緩急が少ない短距離へとシフトしていくのだ。

・母父としての活用法

では、現在に時間を戻して話を進めよう。
冒頭で述べたようにクロフネはすでに多くの産駒を輩出し、その方向性、将来性もある程度までは見えている馬だ。
種牡馬としてではなく、母父というポジションに入ってどうなのかを論じる時期に来ていると私は思う。

参考になるのはクロフネの父であるフレンチデピュティ。
彼も種牡馬としての立ち位置は「ダート馬」だが、母父としてマカヒキ、ショウナンパンドラといった東京芝2400mのGI勝ち馬を輩出した。
その2頭の父はともにディープインパクトだった。

ディープインパクトの「ニックス」として最も有名な存在はストームキャット。
だが、フレンチデピュティもディープインパクトにとっての「ニックス」ではないかと私は考えている。
そして、フレンチデピュティ産駒のクロフネにも、その傾向は引き継がれる可能性が高いと思っている。

クロフネの弱点はレース運びが淡白で、レースでの融通性が利かないこと。
それは父のフレンチデピュティも同じだ。
その弱点を補完する存在がディープインパクト。
ディープインパクトとの配合は一本調子のパワータイプにしなやかさを与え、この系統が最も苦手とする瞬発力勝負への対応を可能にする。
クロフネが父フレンチデピュティよりも能力が上の馬であると考えれば、母父としてのポテンシャルは計り知れないと言えるかもしれない。

ディープインパクトとその後継種牡馬とでは、しなやかさという観点において開きを感じる。
ディープインパクト系の種牡馬のすべてとニックスが成立するわけではなく、あくまでディープインパクトに限った話になるかもしれない。
しかし、クロフネという馬をどのように活用すべきなのか。
それは理解してもらえたのではないだろうか。
もちろん、クロフネ自身の自我が強く出過ぎないことが、この配合では重要になってくるのだが。

(2017年12月執筆)
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